京都伏見アトリエ遊お煎茶教室

9月
六世家元が旅立たれて一年。皆さん各々に思い出のおありの事と思います。今日は満月、空を見上げながら故人を偲んで頂ければと思います。
以下の文章は六世家元を偲び私が書いたもので「三清会通信」に掲載されたものです。

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「中国旅行にご一緒して」今橋治楽
御家元と行く海外旅行はいつも日本からの添乗員は無し。その分の費用を私達の旅行内容の充実にあてて下さった。普通のパック旅行では味わえない「本物の中国と出会う旅」という御家元の思いに溢れていた。
先にご自身が行かれ、これは皆に見せたい、触れさせたい、賞味させたい、感動させたいと思われる所に連れて行って下さった。現地の添乗員の解説で不充分なところは家元自らが付け加えられた。思わず添乗員が拍手するほど中国の事をご存知だった。
そんな御家元に導かれながら旅する中国に、いつの間にか私自身も嵌まってしまっていた。お茶に関する事は勿論だが、中国で接する人々にも関心を持った。どなたも親切で温かい方ばかりなのだ。中国の学者さん、馴染みの添乗員さんら、御家元と以前何らかの関わりを持たれた方々だろう、「小川後楽が中国に来ている」という噂でも流れたのだろうか、御家元に一目会いたいとお土産を持ってホテルの部屋の廊下にずらりと並んでいるのだ。私はその時案内係とでも言おうか、「次の方どうぞ」と順にお客人を部屋の中へ案内していた。全てが終われば日付の変わっていた時もあり、今から思えば嬉しい事もとはいえ体力的にもキツイ事だったろうと思う。しかし私達にとっては、頂かれたお土産の中にとても美味しいお菓子もあって感動した。特に忘れられないのが大きな月餅で、4分の1づつ中に入っている物が違っていた。(レーズン、くるみ、粒あん、餅)そしてその月餅のどこかに金の人形が入っていて、それに当たるとラッキーと云うので皆でワイワイ言いながら食べたのを覚えている。
御家元にとって中国は原点。そこで暮らす人々についての真実を知りたい、遡っては空海が漂着した頃はどうだったろう、唐代の陸羽.盧同に会ってみたいなぁーという情熱いっぱいの御家元の姿を、門人皆微笑ましく見守っていた。そこに小川流の確たるものを見ていたのかもしれない。
随分と前になるが(まだ20世紀の頃)21世紀は、ただ健康だけでは足りない。理性に裏付けされた文化を持って心豊かに生きる事こそ、人としての喜びではないか。それに『煎茶』はピッタリなのだと言っておられた。私はその言葉が頭から離れなかった。
人類と出会って五千年とも六千年言われる『お茶』。その間忘れ去られる事もなく、飽きられる事もなく今に続いている。そのお茶の持つ本来の在り方を問われていたように思う。現在を生きる私達にとっての「お茶のあるべきようわ」その思いを汲み、微力ながら私なりにその「あるべきようわ」を問い続けていきたいと思っている。
長い間本当に有り難うございました。

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